京を捨てた刀工鬼正
どんな伝承か
宮崎市の字新別府小字園田に、刀工鬼正の旧宅がある。鬼正は通称を伝九郎といい、天明六年にこの地で生まれた。父仙蔵は鍛冶を業とし、その器量を見込んで十一歳の伝九郎を佐土原の剣工稲葉伊豆守鬼道に入門させた。師は病に倒れる際、伝九郎に鬼正の名を与え、京の義兄三品伊賀守金道のもとで学ぶよう勧めた。鬼正は京で刻苦精励して腕を上げ、金道は娘の雪と娶わせて嗣子にしようとしたが、門弟たちが妬んで讒言し、ついには命を狙った。鬼正は郷里へ帰り、邸内に工場を設けて鍛冶に打ち込む。その作は古名工を凌ぎ、貞宗の作と誤られることさえあった。慶応三年八月二十七日、八十一歳で没した。
原典より
字新別府小字園田に、刀工鬼正(又鬼政に作る)旧宅あり。—— 日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第14巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第14巻』は、熊本・宮崎・鹿児島の三県に伝わる伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。阿蘇の大鯰や海幸山幸など神話に連なる話から、為朝・景清・人丸姫の伝承、長者や河童・狐の話、池の主や大蜘蛛退治、狩人と犬の話までを収める。各項目は口承を重んじた例話を冒頭に据え、梗概にした類話と、『肥後国誌』など近世以後の史料を原文で引く文献を続け、全体を文化叙事伝説と自然説明伝説の部に分ける。