娘の肉を振る舞った長者と寅御石
どんな伝承か
蓮田市馬込の辻の共同墓地に、寅御石と呼ばれる大きな板碑が立っている。銘には延慶四年三月八日、親鸞門下の唯願が真仏の報恩のために建てたとあるが、この塔には長者の娘の悲話が伝わる。昔、辻の里の大長者にお寅という美しい娘がいて、近郷から縁談が殺到した。誰か一人を選べば他の男の恨みを買うと悩んだ長者は、求婚者を酒宴に招き、娘の腿の肉を膳に出した。一説にはお寅自身が自害し、自分の肉を皆に振る舞うよう遺言したという。事情を知った男たちが涙ながらに建てた供養塔が寅御石の起こりで、村人は今も命日の三月八日に団子を供える。別伝では娘は三浦義直の遺児虎子とされ、深作の皿沼や膳棚橋の名もこの話に由来するという。
原典より
寅御石は、馬込字辻の共同墓地の中に屹然とそびえている板碑である。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。