崖の山を並んで行く狸火の提灯
どんな伝承か
徳島県名西郡神山町の多田正治の話。昭和一〇年ごろまで「東小野」の山に狸火が出た。道もなにもない、人の通れるはずのない崖の山の中を提灯の灯が通って行く。はじめは一つであったのが二つ、三つとなり、しまいには何十にもなって並んで行き、三〇分ほどでぱっと消える。狸火が出るのは七月から九月にかけてが多く、暑い時分で外へ涼みに出ていたためよく目についたのだろうという。近所の人が何人も同じように不思議がるので見まちがいではない。子供の時分には「川平峠」の「鬼田山」にもよく出た。あるとき人が行方知れずになり村中総出で捜すと、晩になって狸も提灯をつけ、昼間の人のとおりに捜すまねをしたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 11 狸・むじな(松谷みよ子・現代民話考・1995年(平成7年))
『現代民話考 11 狸・むじな』は、松谷みよ子が一九九五年(平成七年)に編んだ現代民話の資料集である。明治から現代までに各地で語られた狸・むじなの話を、聞き書き、読者の回答、郷土誌や民話集、新聞記事から集める。狸火、腹つづみ、音まね、いたずら、化かし、たたり、人助け、戦争にいった狸、今の暮しなど十二の部に分け、話例ごとに本文と類話の「分布」を添え、巻頭に序文と前文、巻末にあとがきを置く。