疎開先へ別れを告げに来た学徒兵
どんな伝承か
太平洋戦争中、帝大二年で学徒出陣した弟の正博は、南方でマラリアにかかり三日間高熱にもだえた末に死んだ。ちょうどその頃、御殿場在の豪家を借りて疎開していた姉と母は、屋敷の周りを軍靴の音がかたかたと走り回るのを聞いて目を覚ました。姉が「博ちゃんが帰ったんじゃない」と言うと、母は青ぶくれた顔で「かあさん頭が痛い」と訴えて消えた正博の姿を見たと語った。翌朝、家主の老婆も「今朝早く、お宅へ入っていく兵隊のお客さんを見た」と告げ、二人は言葉を失った。『大法輪』昭和四二年掲載の体験談という。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。