碓氷峠の夜行列車から消える和服の娘
どんな伝承か
昭和二十一年、上野発の信越線が高崎駅を出るのは午前二時半すぎで、客はほとんど眠っている。列車はあえぎながら登って横川に着き、この駅で機関車をつけかえて碓氷峠の坂を登る。K車掌が幻の娘を見たのは、その最後尾のがらんとした車両だった。二十歳ほどの和服姿の娘が背中を向けて坐っており、横川までは乗っていなかったはずだと訝った。うとうとして、軽井沢が近づいたので立ち上がると、娘は消えていた。S車掌も同じ娘を見たといい、ほかにも二、三の車掌が同様の経験を語り出した。娘は軽井沢の手前の最後のトンネルの中で消えるという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。