産婆を化かした尾の上の狐
どんな伝承か
肥前東松浦郡呼子村の尾の上に、よく人を誑かす尾の上の狐がいた。ある夜、村の産婆某が招かれて其の家に到り、産も易く済んだので厚くもてなされ、夜も更けたのでそこに泊まった。翌朝、目を覚ますと産婆は岩の上に寝ていた。礼として前夜贈られたものは木の葉ばかりで札でも何でもなく、馳走だけは湊村某家の婚礼の仕度を盗んで来たものであった。これは尾の上の狐の仕業で、この外にも妙齢の子女が誑かされ、ついには狂乱に陥ることさえあったという。
原典より
翌朝になつて目をさまして見るご産婆は岩の上に寝て居るここに気がついた。—— 炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
炉辺叢書 筑紫野民譚集(及川儀右衛門・1923年(大正12年))
『炉辺叢書 筑紫野民譚集』は、及川儀右衛門が筑紫野で暮らした二年ほどの間に、土地の故老や下宿の老婆から聞いた話、教え子が書き送ってきた物語を文献とも照らしてまとめた民譚集である。筑後を中心に筑前・肥前・肥後・豊前・豊後の河童、怪火、長者の話、神事と歌舞、山と水の伝奇、狐狸や幽霊の怪異を六篇に分けて収め、多くの話に古記録を引いた〔註〕を添える。序の日付は大正十二年六月である。