王滝村の金兵衛を脅した山男
どんな伝承か
文化年間のこと、木曽の王滝村に住む金兵衛という老人が、山で異様なものに出会った。八、九尺を超える篠竹の茂みの上に、髪の長い怪物が顔を突き出し、大きな手を一本頭の上へ高く掲げて金兵衛をおどしたのである。目は白く大きく、普通の茶碗ほどもあるように見え、顔の皮膚は淡い赤色で、ほかは黒く見えたという。金兵衛は恐ろしさに命からがら山を逃げ下った。また想山の友人の石川某も、かつて木曽の山奉行の下役として勤めていたころ、山中で藤の皮で作った長さ三尺ほどの山男の草鞋が捨ててあるのを二度見たと語ったという。
原典より
八九尺以上もある篠竹の上へ髪の長い怪物が面部を出して大きい手を一本高く頭上へ挙げ乍ら、金兵衛を威嚇したので…—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。