俳優の朝鮮行きを言い当てた中野の老婆
どんな伝承か
東京郊外の中野町に、越後生まれの石坂ヤチという透視の力の強い老婆がいた。ある年の四月末、新派の俳優Yが京城の興行師に招かれ、出発前に見てもらうと、京城では大当たりだが金は約束どおり入らない、滞在中に北の方からも招かれるが応じないほうがよい、朝鮮に着く時は三人連れでトランク三つを持って下船する姿が見える、と告げた。父子二人でトランク二つのつもりだったYは疑ったが、出発の日に荷物の都合でトランクを一つ買い足し、五月一日に釜山に着くと京城から迎えが一人船室まで来て、三人で桟橋へ下りた。興行は当たったが金は約束の六分あまりしかもらえず、安東県から招かれたのも当たり、言われたとおり断ったという。
原典より
又朝鮮へ着船のときの模様が見えるが、三人連れで下船し、トランク三個携帯してゐる云々と。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。