誰も触れぬのに鳴った庖丁
どんな伝承か
五、六歳のころ、昭和十一、二年ごろのことだという。清瀬で養鶏場を営みながらイタリア語の翻訳もしていた伯父がいたが、外科医が暇つぶしに盲腸でも切ってやろうかとふざけて腹を切ったところ、そのまま死んでしまった。当時の家は子供部屋と居間と父の部屋がある平屋だった。その居間で、出しっぱなしにしてあった庖丁が、誰も触れていないのにチャリチャリンと大きく鳴った。父は、これは何かあると言って和服を脱ぎ、出かける支度を始めた。そこへ電報が届き、清瀬の伯父の死が知らされた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。