溺れた生徒が乗ったあの世行きのエスカレーター
どんな伝承か
昭和三十八年の真夏、加古川市を流れる加古川で泳いでいた生徒が、足のけいれんからおぼれて仮死状態になった。担任の教師が、蘇生した本人から聞いた話である。仲間が人工呼吸を繰り返しているあいだ、本人は大勢の人と一緒に自動のエスカレーターのようなものに乗り、針の穴ほどの小さな灯りを目指して「あの世」へ上っていた。あたりには乳白色の花が一面に咲き、色のない世界が続いていた。そのとき後ろから誰とも知れぬ声が「オーイ」と呼ぶので振り向くと、「気が付いた」という声がした。のどが鳴り出したので助かると思い、皆で懸命に蘇生術を続けたのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。