峠の怪火と狐の子の仇討ち
どんな伝承か
印南郡西志方村の立川孝一が若いころ、盆踊り見物から仲間と帰る夜道で、村はずれの伊藤伝右衛門の家のあたりの田んぼに人の頭ほどの火が上下して浮かぶのを見た。火は近づくほど遠のいて消え、同じ夜に伊藤家の老婆も見て気絶した。続いて隣村の桶屋も怪火に追われ、村には夜明け前に粉を搗くような音が響くようになった。大工の佐助が待ち伏せて雨戸を叩くと、狐らしい影が叫んで逃げ、怪異は止んだ。ところが一年ほど後、古釜を背負って峠を越える佐助の前に、提灯を持った娘と若い男が代わる代わる現れ、老婆が死んでいると告げては釜を叩いた。佐助は家に逃げ込んで倒れ、ひと月余りで痩せ衰えて死んだ。狐の子の仇討ちと噂されたという。
原典より
伊藤を家のあたりの田圃の中に大きな火の頭程の火が朧ろげに点つてゐる—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。