仮橋に置き去られた盛岡の医者
どんな伝承か
奥州盛岡の内加賀野に、原田壽庵という医者がいた。あるとき治療に必要だといって狐を一匹生け捕りにし、その生肝を抜いて薬に使ったことがある。翌年の正月、寒さの絶頂という夜の十二時ごろ、原田の門を割れんばかりに叩く者があり、某方の主人が病だから至急来てほしいという。門外には駕籠が待っており、乗り込むと戸を閉め切って飛ぶように走り去った。やがて駕籠は下ろされたが、あたりは静まり返って人の気配がなく、足もとには水の流れる音がする。戸を細めに開けると、駕籠は木場の仮橋の上に置き去りにされていた。壽庵は身動きもできず、夜明けを待って助けられた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
実説妖怪新百話
『実説妖怪新百話』は、著者名の記されない明治の怪談集である。本郷駒込曙町の世外庵に住む天保初年生まれの老翁の勧めで、門下生三十六人が百物語の会を開き、武家の妻の執念、化物屋敷、狐狸の化かし、前妻のたたり、漁師の幽霊の帰宅などを、自分の見聞や親から聞いた話として順に語る。冒頭の「百物語の開筵」で会の趣向を述べ、続いて会津・三河・江州・若狭・盛岡・八戸などを舞台にした話を題ごとに並べる。