妊婦を食い殺した稲荷のキツネ
どんな伝承か
群馬県多野郡のある村で聞かれた話である。およそ十年前、妊娠九か月の主婦がキツネに脇腹を食われ、お腹の子まで食われて死んだという。その後、山で石を切り出す仕事をしていた夫も、石の下敷きになって命を落とした。このキツネは、どこかの家で祀っている稲荷のキツネだとされる。この地方ではオサキに憑かれると体に穴があくが、キツネでは穴はあかないといわれる一方、こうした妊婦の話もあるため、症状の上でオサキと稲荷のキツネの区別ははっきりしないという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年))
『日本の憑きもの』は、吉田禎吾が一九七二年に著した人類学の研究書である。キツネ・イヌガミ・オサキなどの憑きもの信仰と、それを家筋で伝える憑きもの筋を、島根・高知・大分などの村での調査事例と古記録をもとに取り上げ、アフリカやヨーロッパの邪術・妖術と比べて論じる。三章立てで、憑きものの正体と特色、憑きもの筋の形成と伝播、憑きものが村落社会で果たす働きを順に述べ、注とあとがきを付ける。