子を奪い合う瓜二つの乳母
どんな伝承か
今は昔、源雅通中将が四条大路の南、室町小路の西方の家に住んでいたときのこと。乳母が二歳ばかりの子を抱いて南面の人気のない所で遊ばせていると、にわかに子の泣き叫ぶ声と乳母のわめき声がした。北面にいた中将が太刀をひっさげて駆けつけると、瓜二つの乳母が二人、間に子を置いて左右の手足を引っぱり合っていた。どちらが本物か見分けがつかず、狐の類だろうと太刀をきらめかせて走りかかると、一人の乳母がかき消すように失せた。狐か物の霊か、結局わからずじまいだったと語り伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。