イタコの告げが招いた撲殺と憑依論
どんな伝承か
憑きものに憑かれた状態は、社会的に形づくられた精神の異常であり、心的分離を伴う一種の狂乱状態だと説かれる。その筆頭に挙げられるのが、一九七〇年十二月八日の朝、青森県津軽郡蟹田町で起きた事件である。母親はイタコの告げを信じ、頭痛を訴える十八歳の長男に悪霊が乗り移ったと考えて、これを追い払おうと長男を殴り殺してしまった。母親は、息子に乗り移った神様が息子をとるというので睨み合い、取っ組み合いになったが神様に負けたのだ、と錯乱したまま述べたという。死んだ息子は大工見習いで、近所からは仲のいい親子と見られていた。
原典より
* 外国の憑きもの* 望ましい憑霊と望ましくない憑霊* 家系と結びつく日本の憑きもの* 人と動物霊* キツネの正体* イヌガミの正体* オサキの正体* 蠱道との類縁* 憑きものと性—— 日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の憑きもの(吉田禎吾・民俗・憑きもの研究・1972年(昭和47年))
『日本の憑きもの』は、吉田禎吾が一九七二年に著した人類学の研究書である。キツネ・イヌガミ・オサキなどの憑きもの信仰と、それを家筋で伝える憑きもの筋を、島根・高知・大分などの村での調査事例と古記録をもとに取り上げ、アフリカやヨーロッパの邪術・妖術と比べて論じる。三章立てで、憑きものの正体と特色、憑きもの筋の形成と伝播、憑きものが村落社会で果たす働きを順に述べ、注とあとがきを付ける。