四十八坂で刺した妻の正体
どんな伝承か
船越の漁夫某が、ある日仲間と吉利吉里から帰る途中、夜更けに四十八坂のあたりを通ると、小川のある所で一人の女に逢った。見れば自分の妻である。しかしこんな夜中に一人でここへ来るはずがないから必ず化物だと思い定め、やにわに魚切庖丁を持って後ろから刺し通すと、女は悲しい声を立てて死んだ。しばらく正体を現さないので気にかかり、後を連れの者に頼んで家へ駆け帰ると、妻は何事もなく家で待っていた。妻は、あまり帰りが遅いので夢に途中まで見に出たところ、山路で何とも知れぬ者に脅かされ、命を取られると思って目が覚めたと言う。引き返して見ると、殺した女はついに一匹の狐になっていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。