渚の霧に現れた亡妻と初恋の男
どんな伝承か
土淵村の助役北川清の弟の福二は、海岸の田の浜へ婿に行ったが、先年の大海嘯で妻と子を失い、生き残った二人の子と元の屋敷跡に小屋を掛けて一年ばかり暮らしていた。夏の初めの月夜、遠く離れた便所に起き出すと、行く道は浪の打つ渚である。霧の中から男女二人が近寄るのを見ると、女は正しく亡くなった妻だった。思わず跡をつけ、船越村へ行く崎の洞のある所まで追って名を呼ぶと、振り返ってにこりと笑った。男も同じ里で海嘯に死んだ者で、妻が嫁ぐ前に深く心を通わせていたと聞いた男だった。今はこの人と夫婦になっていると言い、子供はかわいくないのかと問うと、女は少し顔色を変えて泣いたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。