水口から死人を操る狐
どんな伝承か
旅人が豊間根村を過ぎ、夜が更けて疲れたので、知り合いの家に灯りが見えるのを幸いに休ませてもらおうと入った。すると主人が、よい時に来た、今夕死人があり留守の者がなくてどうしようかと思っていた、しばらく頼むといって人を呼びに出て行った。迷惑ながら是非もなく囲炉裏の側で煙草を吸っていると、奥に寝かせた老女の死人が床の上にむくむくと起き直る。胆を潰したが心を鎮めてあたりを見回すと、流し元の水口の穴から狐のような物が面を差し入れ、しきりに死人の方を見つめていた。身を潜めて外に出て背戸へ回ると、正しく狐が首を穴に入れて後足を爪立てている。ありあわせの棒でこれを打ち殺した。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。