岩の上で黒髪を梳いていた女
どんな伝承か
山々の奥には山人が住む。栃内村和野の佐々木嘉兵衛という人は今も七十余で生きている。この翁が若かった頃、猟をして山奥に入ると、遙かな岩の上に美しい女が一人いて、長い黒髪を梳っていた。顔の色はきわめて白い。不敵な男なので直ちに銃を差し向けて撃つと女は倒れた。駆け付けて見れば身の丈の高い女で、解いた黒髪はその丈よりも長かった。後の験にとその髪を少し切り取って懐に入れ家路に向かったが、道すがら耐え難く眠気を催し、まどろむ間に丈の高い男が近寄って懐から黒髪を取り返して立ち去ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。