離森の長者屋敷で笑う女
どんな伝承か
離森の長者屋敷には、この数年前まで燐寸の軸木の工場があった。その小屋の戸口に、夜になると女が伺い寄ってきて、人を見るとげたげたと笑った。淋しさに堪えられず、ついに工場は大字山口へ移された。その後また同じ山中に、枕木の伐り出しのために小屋を掛けた者があったが、夕方になると人夫がどこかへ迷い行き、帰ってきた後は茫然としていることがたびたびあった。そういう人夫が四、五人もあり、その後も絶えずどこかへ出て行くことがあった。彼らが後に言うには、女が来てどこかへ連れ出すのだという。帰ってからは二日も三日も物を覚えていなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。