兵営から郷里へ飛んだ仁太郎の魂
どんな伝承か
日露戦争のころ、満州の戦場ではロシアの俘虜が、日本兵のうち黒服の者は射てば倒れたが白服の兵隊はいくら射っても倒れなかったと言っていたという。当時、白服の日本兵などいないはずだと、土淵村の似田貝福松は語った。似田貝が近衛連隊にいたとき、同じ土淵村から来た同年兵の仁太郎が、逆立ちの最中に台木から落ちて気絶し、午後三時まで前後不覚だった。仁太郎は、地上五尺ほどを飛んで郷里へ帰り、妻と娘が小川で足を洗うのを見、家の炉端で母が煙草を喫むそばに坐ったと語った。郷里からも同じ日に白服の仁太郎が飛ぶように帰ってきて消えたという便りが来たという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談集 幽霊篇(今野圓輔・今野圓輔・日本怪談集・1969年(昭和44年))
『日本怪談集 幽霊篇』は、今野圓輔が昭和四十四年に編んだ幽霊体験談の集成である。新聞・雑誌・単行本や民俗の報告、編者自身の採集から、影や物音、人魂、生霊、死の知らせ、皿屋敷、戦死者の霊、船幽霊、タクシーに乗る幽霊など、日本各地の人びとが見聞きした怪異を、作家の創作を除き原文を尊重して再録する。十章に分けて各章の頭に編者の解説と注を置き、巻末に産女や子育て幽霊を論じた「幽霊外伝」と木原浩勝の解説を付す。