藤蔓で幼児を負った笹原の女
どんな伝承か
山口村の吉兵衛という家の主人が、根子立という山に入って笹を刈り、束にして担ぎ上がろうとしたとき、笹原の上を風が吹き渡るのに気付いて見ると、奥の林の中から若い女が幼児を負って笹原の上を歩み、こちらへ来る。きわめてあでやかな女で、これも長い黒髪を垂れていた。幼児を結び付けた紐は藤の蔓、着た衣類は世の常の縞物だが、裾のあたりはぼろぼろに破れ、色々の木の葉を添えて綴ってあった。足は地に着くとも覚えず、事もなげに男のすぐ前を通り過ぎて行った。この人はその折の恐ろしさから煩い始め、久しく病んで近ごろ亡くなった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。