サムトの婆の帰還
どんな伝承か
黄昏時に女や子どもが家の外に出ていると神隠しに遭うことは、他の国々と同じである。松崎村の寒戸という所の民家で、若い娘が梨の樹の下に草履を脱ぎ置いたまま行方知れずになった。三十年あまり過ぎたある日、親類知音の人々がその家に集まっていた所へ、ひどく老いさらばえたその女が帰って来た。どうして帰って来たのかと問うと、人々に逢いたかったからだと答え、それではまた行くと言って、再び跡を留めず去った。その日は風の烈しく吹く日であった。それゆえ遠野郷の人は、今でも風の騒がしい日には、今日はサムトの婆が帰って来そうな日だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。