霧の渚に現れた津波の亡妻
どんな伝承か
土淵村の助役北川清の弟に福二という人がおり、海岸の田の浜へ婿に行ったが、先年の大海嘯で妻と子を失い、生き残った二人の子と元の屋敷の跡に小屋を掛けて暮らしていた。夏の初めの月夜、便所に起き出ると、霧の中から男女二人が近寄る。女は正しく亡くなった妻であった。思わず後をつけ、船越村の方へ行く崎の洞のある所まで追って名を呼ぶと、振り返ってにこっと笑った。男は同じ里で海嘯に死んだ者で、以前妻と心を通わせていたという。今はこの人と夫婦になっていると言うので、子供は可愛くないのかと問うと、女は顔色を変えて泣いた。二人は星ヶ浦へ行く道の山陰を回って見えなくなった。福二はその後久しく煩ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。