白壁に塗り込められたお咲
どんな伝承か
淡路島の洲本、船場町に伝わる話である。維新の少し前、入江を見下ろす崖の上の屋敷に、四百石取りの侍吉田が住んでいた。吉田は女中に来た十八歳のお咲に言い寄ったが、許婚のいるお咲は拒んだ。ある夕方、お咲が浜で偶然出会った許婚の善之助と話し込むうちに、預かっていた五歳の若様利輝が突堤から海に落ちて死んだ。葬儀の夜、吉田は離れの床の間の脇に穴を開けさせ、仲間の嘉蔵に壁土を運ばせて、お咲を生きたまま塗り込めた。のちに離れの白壁を見た嘉蔵が気絶し、月見の夜にはお咲の幽霊が現れて行燈の灯が部屋中をさまよった。翌年正月、吉田は離れで若侍に斬られ、嘉蔵は身を投げ、妻お菊は行方知れずになったという。
原典より
辺りもシンとした時、枕許にお咲の幽霊が現はれ枕許に置いてあつた行燈の影が、ユラユラと部屋中を動き廻るので—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。