桔梗家の八畳間に通う斑猫
どんな伝承か
大阪新町の楼に京の祇園から移ってきた芸妓の梅次は、来て間もなく原因の分からない衰えに取りつかれたが、食欲だけは落ちなかった。抱え主は養生のためにと、妹が兵庫の柳原で営むお茶屋桔梗家へ梅次を預けた。梅次は維新のころ志士が密談したという奥の古座敷の八畳間で寝起きしたが、隣に寝る老女お民は、毎夜二時から三時ごろ黒い斑の猫が襖を開けて忍び込み、そのあいだ梅次がうなされるのを見届けた。話を聞いた楼主も自分の目で猫を見て、梅次を母屋の二階へ移し、窓や襖を釘で閉ざした。すると猫は屋根の上で夜ごと哀れな声で鳴き続け、声は日ごとに細って、八日目にとうとう聞こえなくなったという。
原典より
その猫が入ったと思ふと梅次は忽(たちま)ち何時(いつ)ものやうに魘され出したのである。—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。