婚礼の夜に鳴る一本榎
どんな伝承か
播州吉川の山の麓に、界隈で一本榎と呼ばれる大榎がある。昔、この村の百姓の息子市蔵には従妹のお光という許婚がいたが、庄屋の総領息子金助がお光に執心し、市蔵が納め残した年貢米十石を三日で返すか、お光を差し出せと迫った。お光の心も金助に移り、師走二十一日の婚礼の席では裏庭の榎が鳴り、盃が砕け、燭台の灯が一度に消えた。その夜、厠に立ったお光は榎の枝に白装束の市蔵が首を吊っているのを見て気を失い、そのまま死んだ。以後、榎が鳴るたび市蔵の亡霊が金助の首を締めに現れ、七日目の朝、金助は顔を掻きむしられて死んでいた。榎が夜泣きするたび庄屋の家では誰かが死に、一月足らずで一家は絶えたという。
原典より
人間、白装束した大きな男が榎の枝からブラリと下がってゐるのだ。—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。