ねてこが池に誘われた薬売り
どんな伝承か
真夏の暑い日、西宮の川上にあるねてこが池の堤で、富山の薬売りが荷を下ろして汗を拭くうち、池に向かって独り言を言いながら着物を脱ぎ、池へ飛び込もうとした。下の田で働いていた百姓が抱き止めて背中を殴ると、薬売りは我に返り、日暮れに大きな旅館へ着いて綺麗な仲居に風呂を勧められたつもりだったと語った。この池は夙川を遡った満池谷の北にある古い用水池で、底が知れないほど深く、維新後から日清戦争のころには毎月のように溺死者が浮かび、池の精の仕業とされて施餓鬼の碑も建てられていた。百姓は薬売りを西宮の戎神社の門まで送ったが、翌日、その薬売りは池で死んでいたという。
原典より
驚くまいことか唯つた昨日自分が茲で助けたばかりの富山の薬屋が死んでゐるのである。—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。