女が化けた大入道に洋刀を奪われた署長
どんな伝承か
署長は泣いていた女を西宮へ送るつもりで、池の化け物を退治に来たことなどを話しながら、月明かりの細い野道を二、三丁ほど進んだ。ふと、後ろに聞こえていた女の草履の音が途絶える。振り返ると女の姿はなく、真っ黒な大入道が目をむいてこちらをにらんでいた。署長は首筋をつかまれて田んぼへ放り出され、洋刀を抜こうとすると、刀はいつの間にか奪われ、腰にはちぎれた帯革だけが残っていた。飛びかかっても相手は前にいたかと思えば背後に回る身軽さで、泥まみれになって土手へ這い上がったときには姿はなく、草むらから高笑いが聞こえるだけだった。署長は傷を負って引き揚げ、恥を隠したが、噂は町に広まって怪物はいっそう恐れられた。
原典より
「オヤッ」と署長は驚いて振返つて見ると、こは抑も如何に、今し方まで話しながら自分に付いてゐた女は見えず、其処には真っ黒な大入道が、両眼をカッと見開き此方を睨め付けてゐる。—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。