ねてこが池の堤で泣く乳呑児の女
どんな伝承か
三人の巡査が池に投げ込まれて逃げ帰ると、名乗り出る者もなく退治はいったん沙汰やみになった。ところが間もなく、また溺死者が浮かび上がる。面目を失った西宮警察署の署長は、部下も連れず家の者にも告げずに、官服に草鞋の姿で夜のねてこが池へ向かった。堤に腰を下ろしても何も起こらないので池のまわりを歩いていると、髪を乱し乳飲み子を抱いた三十前の女が泣きながら駆けてくる。呼び止めると、麓の村の者の女房で、夫の留守に意地の悪い姑と言い争って追い出されたのだという。署長が家に戻るよう諭しても聞かないので、西宮の実家まで送ってやろうと言うと、女は署長と知って喜び、笑顔を見せてその後ろについて歩き出した。
原典より
だが少し時間が早いので、其の後のことかも知れぬと思つて池の周りをテクテク歩いて行くと、こは如何に、この池の端にせき切つて駆けて来るものがある。—— お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
お化と幽霊 怪談揃ひ(大文館編輯部(編纂))
『お化と幽霊 怪談揃ひ』は、播州を中心に摂津・淡路・大阪・神戸の怪異を集めた怪談集である。神戸のチャブ屋に残された下女の片足の靴、明石の坊主橋に出る按摩の怨霊、西瓜に浮かぶ女の顔、淡路洲本の白壁物語、西宮のねてこが池の怪などを、地名と人名を挙げて講談調で語る。三十余りの話を並べ、天保や明治九年の出来事とする話のほか、寄せられた原稿によるとことわる話も含む。