家から飛んで牛鬼を刺した守り刀
どんな伝承か
石見国那賀郡の浅利でも、昔、牛鬼に襲われた人がいる。旧家の折谷の主人が夜釣りでむやみに魚が釣れて喜んでいると、濡れ女が赤子を抱いて現れ、魚をこの子にくれと頼んだ。与えると赤子は骨ごと平らげ、断れぬまま魚を全部、脇差まで食われてしまった。それから赤子を抱かされると、濡れ女は海へ消えた。そのころ家では、刀掛けの刀がひとりでにじゃんじゃん鳴り、妻が戸を開けると守り刀が鞘から抜けて海の方へ飛んで行った。浜では牛鬼が現れて迫り、赤子が手に吸いついて走れずにいると、光るものが飛んで来て牛鬼の胸に刺さり、追って来なくなった。翌日、沖に大きな黒い獣の死骸が流れていたと聞き、牛鬼だろうと噂されたという。
原典より
戸を開けると、内なる刀架におる一本の短刀が、自分で鞘から出で、電光の勢いで空中を飛び乍ら海の方へ行ったので、妻女は大に驚いた。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。