七歳で消え三度天狗界へ行った源左衛門
どんな伝承か
明和年間、上総国夷隅郡中崎村の農家の子源左衛門は、七歳のとき氏神の八幡社に参った際、鳥居のあたりに現れた山伏姿の者に連れ去られた。八年後に家族が仏事を営むと、まもなく相模の大山神社の近くに、失踪したときの着物のままの少年が現れ、腰の札から源左衛門と分かって村へ送り返された。天狗の仲間として使い走りをしていたが、仏事で身が穢れたとして帰されたのだという。十八歳でふたたび連れ出されて越中立山の天狗の道場に仕え、十九歳で俗縁が強いとして戻された。のちに江戸で奉公したが、四十一歳の春に両国橋のあたりで気が遠くなり、気づくと十月末の信濃善光寺の門前に立っていたという。
原典より
明和年間、上総国夷隅郡中崎村の農夫の子、源左衛門が七歳の折りに氏神八幡社へ詣うた時、鳥居の辺から山伏体の人間が現はれて来て、どこかへ連れて行った。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。