大天狗を呼び集めた学林坊の下男
どんな伝承か
比叡山学林坊の下男に二郎という者がいた。行方が知れなくなって十日ほどして戻り、自分は当山の二郎坊という天狗の使者となって空を運ばれ、愛宕・鞍馬・彦山・大仙・妙義をめぐって、それぞれの大天狗をこの山の三ノ宮へ呼び集めさせられたのだと語った。人々が三宮へ詣でると、晴れていた空がにわかに荒れて大粒の霰が降った。二郎は社の棟へ跳び上がり、逆さまに落ちて軒端で起き上がって立ってみせる。屋根の上には大勢の人影が現れ、幣を振って舞うのが皆の目に見えた。門の大扉は二三十人がかりで運ぶほどのものだったが、二人が一町先へ投げつけても壊れなかった。空からは礫が降り注ぎ、祠の前に小山のように積もったという。
原典より
慶長十九年五月二十一日、僧天海が駿府で家康に面食をした時、その頃天狗に捉へられて行った比叡山学林坊の下男の二郎と云ふもの、実話を語ったことが『駿府記』に載ってゐる。—— 幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵(岡田蒼溟・幽冥界研究・怪談)
『幽冥界研究資料 第二巻 靈怪談淵』は、岡田蒼溟による霊怪の事例集である。祟る石、出雲の瀧姫行者、神西湖の妖怪、但馬の抜け首、黄金の精、海の牛鬼、天狗などの怪異を、著者自身の見聞や知人の談話、古い文書からの移載によって集め、明治・大正期の出雲や松江周辺の事例を多く含む。項目によっては【解題】や註を添え、事例の後に「第二編」と附録の「天狗考」を続け、巻末の「解説の欄」で生霊・疫神・物体の飛来などを心霊研究の立場から論じる。