所沢の井戸で死んだ娘の光
どんな伝承か
昭和の初めころ、夏のある晩のこと。母と姉が蚕に桑をやり、「もう寝べや」とお茶を飲んでいると、開けたままの座敷の障子の向こう、すぐ後ろの家の屋根の上で何かがキラキラと光った。まだ電気もないころで、何だろうと見ていると、さっと下に落ちて消えた。翌日の昼ごろ、その家の娘で所沢へ奉公に出ていたAさんが亡くなったと知らせがあった。深いことで知られる所沢の井戸で釣瓶のワッパが壊れ、逆さに落ちたのだという。母は前夜の光を「あれは確かにAさんが来たんだよ」と一生言っていた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
所沢市史 民俗編(所沢市史・昭和中期(推定))
本書は埼玉県所沢市の民俗編として、明治から昭和戦中にかけて市内に伝承された怪談や民間信仰を記録した資料である。主な内容は、家に棲み着くヘビ、仏様が姿を変えた霊的存在、天狗やカッパなどの妖怪に関する伝承、雷獣などの民俗的存在が多く、これらは子供のしつけや禁忌事項として語り継がれていた。記録された話の多くは目撃者からの伝聞であり、所沢市内の実在する地名(北秋津、南永井、久米、本郷など)と結びついた地域固有の民間信仰を示している。