時化の海から柄杓を貸せと呼ぶ声
どんな伝承か
北部陸中海岸は昔から貧しく、無理をして漁に出ることが多かったうえ、明治以来なんども津波の大被害に遭っており、海難事故も多いところである。海が時化ている時に漁に出たり、夜の海岸などにいたりすると、船のきしむ音や人声が近づいて来て、『柄杓を貸せ』と言いかけるそうである。船から水を汲み出すためだろうという。それに応答したり言葉をかけたりすると必ず災難に遭うので、知らんふりをして早々に逃げ帰ることにしている。船のきしむ音やエンジン音が聞こえても、船や人影はまったく見えず、漁の仕事も中途で放り出して逃げるのが一番だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。