坊さんを乗せて櫓を押す精霊船
どんな伝承か
島根県簸川郡の、六十年か六十五年ほど前の話である。今でも精霊船といって、海で死んだ者のために麦わらで組んだ船に戒名を書き、盆の御馳走をのせて海へ流す供養がある。ある夏の盆のころ、殺生を厳しく忌む月であるのに、話者が十七、八のころ、兄とともに夜、たいまつをつけて島へ栄螺を採りに出た。すると、提灯をいっぱいに下げた船に、青い坊さんや赤い坊さんが乗り、「よいしょ、よいしょ」と声をそろえて櫓を押しているのが見えた。漁師の亡霊だと恐れ、たいまつを投げ捨てて逃げ帰ったため山が燃えた。地下の者が消しに行くと、そこに精霊船が着いたばかりで、あれに仏が乗っていたのかと後で気づいたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。