客に凄まれた運転手の猛運転
どんな伝承か
三月下旬の深夜、百人町から池袋までという若い男を乗せた。派手な上着に坊主頭で、座席にふんぞり返って煙草をふかしている。明治通りは道路工事だらけでひどい渋滞だった。客を降ろした同僚の車を列に入れてやると、男は割り込みだと怒り、あんな運転手は死んでしまえ、自分は池袋で組の運転手をしているのだと毒づき、飛ばせと言う。同僚を悪く言われた運転手は急発進し、信号ごとに他の車を引き離して走り、池袋のびっくりガードの坂は無制動でわざと跳ねさせた。目的のマンション前へぴたりと着けると、男は恐れ入りましたと言って降りていった。
原典より
自分の所から二十里ほどの後藤野の話。—— 現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 偽汽車(松谷みよ子・現代民話考(ちくま文庫)・2003年(平成15年))
『現代民話考――偽汽車』は、松谷みよ子が編んだ『現代民話考』全十二巻の第三巻で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。鉄道開通のころ狸や狐が汽車に化けたという偽汽車の話、船幽霊や幽霊船など海の怪談、タクシーの幽霊など自動車や列車の怪談と笑い話を、全国の回答者の聞き書きや新聞・雑誌・書籍から集める。三章それぞれの冒頭に考を置き、話ごとに本文と分布を並べて地名・話者・出典を添える。