熱川の浜で七人が見た水死者の衣
どんな伝承か
昭和十四年三月二十一日から三十日頃、静岡県賀茂郡東伊豆町での話。当時東大生だった友人六人と伊豆の東海岸へ遊びに行き、午前十時頃に熱川温泉に着いた。岩風呂に浸ったのち海岸へ散歩に出ると、海に近い砂地の物干場のそばで、黒っぽい衣類とその襟から垂れた毛髪が目に映った。白昼夢のようでありながら実在感はあり、一同も同じものを見ていた。宿に戻ると女中が、この先の浜で誰かが投身自殺し、死体はまだ上がらないと話した。午後、同じ海岸づたいの片瀬で女の死体が上がったと聞き、着物の縞柄も姿かたちも午前中に見たものと符合した。自殺者は支那事変で戦死した夫を慕い、新婚旅行の地を選んだのだという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話(松谷みよ子・民話・口承文芸・2003年(平成15年))
『現代民話考 ― 死の知らせ・あの世へ行った話』は、松谷みよ子が編んだ現代の民話の聞き書き集で、二〇〇三年一月付の文庫版まえがきを持つ筑摩書房の文庫版である。一九七八年に発刊された『民話の手帖』を通じて全国から寄せられた回答を中心に、臨死体験、死の知らせ、寺へ来る死者、生まれかわりの話を収める。「あの世へ行った話」「死の話」「生まれかわり」の三章の冒頭に編者の論考を置き、細目ごとに所在地・話者・出典を添えた類話を並べる。