死の夜に貸金を取り立てに来た男
どんな伝承か
富山県婦負郡八尾で紙漉と養蚕を業とする山中徳兵衛は、八尾在山田の温泉で湯治中に懇意になった富山市柳町の甚九郎から、去る三月に三百圓の融通を受けた。甚九郎は病死する際、その三百圓を案じて死んだ。その夜十二時頃、徳兵衛が床に就いて眠れずにいると戸を叩く音がする。自ら取次ぐと甚九郎で、急に都合があって三百圓返してもらいに来たという。金を渡すと、夜は物騒だから渡し場まで送ってくれという。提灯を下げて出ると甚九郎は先へ行き、神通川の渡し舟に乗ると姿が見えなくなり、早くも向う岸で徳兵衛を呼んでいた。舟頭は誰も乗っていないと不審がった。徳兵衛が甚九郎の宅へ行くと、旦那が亡くなったと大騒ぎの最中であった。
原典より
提灯を下げて出ると甚九郎は十丁程前へ行き、神通川の渡し舟に乗ると甚九郎は見えなくなり、早や向ふの岸で徳兵衛を呼んでゐる。—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。