相談所を訪れた京橋のK夫人の生霊
どんな伝承か
人相と手相で運命の相談に応じる小西久遠のもとに、五月三日の夕方六時ごろ、常連のK夫人が座っていた。受付は午後四時までのはずだと書生を呼んで叱ると、誰も来ていないという。振り返れば向かいの席から夫人の姿は消えていた。慌てて京橋にある夫人の家へ電話をかけると、四月の末から風の病で臥せったきりの重体で、一時間ほど前から眠っているとの返事である。夫人は三十二歳、四人の子を抱えて夫とは別居し、苦労続きで神経を尖らせていた人だった。前の年から毎月二度は通っていたが、その年に入って音信が絶えていた。生霊が訪ねてきたのだとしか思えなかったという。
原典より
* 幽靈見た證據と感覺* 感覺は符牒* 自覺的感覺* 種々に起る幻覺の例* アリストテレスの試験* 幽靈本體の説明* 幽霊は網膜の現象* 靈魂の現はれ* 幽霊の奥様—— 幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
幽霊は語る(梶天真・1938年(昭和13年))
『幽霊は語る』は、梶天真が編んだ幽霊譚と幽霊論の集成で、昭和十三年に文明社から出た。新聞・雑誌の記事や井上円了・柳田國男・高峰博らの所説、古典の文を出典を添えて引き、葬送の習俗や布哇の霊魂観から説く幽霊思想、幻覚や網膜による説明、乃木大将が見た我が子の幽霊などの実話を集める。三篇に分かれ、第二篇は男女の幽霊・怨霊・生霊・小児の見た幽霊・前知らせなど八項、第三篇は幽霊写真・化物屋敷・霊界通信を扱い、巻末を夕張と筑前の幽霊問答で結ぶ。