辞世を残して家を出た日本橋の娘
どんな伝承か
日本橋に住む十九歳の娘が、家人に何も告げずに姿を消した。鈴蘭を詠んだ辞世を一首残して死のうとしたのだが、しばらくしてふらりと戻ってきた。本人の話では、犬吠岬の宿に泊まった翌日の夕方、波音を聞きながら灯の下を歩いていると刑事らしい男が近づいてきたので、家からの追っ手だと思い込み、持っていた写真を置いたまま汽車に乗った。降りたのは亀戸で、そこから先はほとんど夢中だったという。やがて麹町の知人宅に身を寄せていた。死のうとした理由は自分でも分からず、教会で説教を聞いていたことと、その年の九月に親を亡くしたことを挙げるにとどまった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
變態心理と犯罪(中村古峽)
『變態心理と犯罪』は、中村古峽が著した変態心理学の論集である。二重人格、夢遊病、狐憑きや神隠し、催眠術を心理学の立場から解き、大本教・天理教・金光教などの神憑りや心霊術を迷信として論じ、迷信や二重人格のからむ大正期の犯罪事件の実話を収める。著者自身の被験者や大本教訪問の見聞を例に引き、変態心理の解説から催眠術、宗教批判、犯罪の実話へと進む順に並べる。