風の神の袋と間違えられた軽気球
どんな伝承か
二十三日、築地の海軍省練習場で軽気球の実験が初めて行われた。長さ九間、幅五間の球皮は奉書紙百二十反をミシンで縫い合わせてゴムを塗ったもので、金杉の瓦斯局から蒸気ポンプで一万五千立方尺の瓦斯を送り込んだ。海軍兵学校の馬場新八が搭乗して千二百尺まで上がり、実験を終えて降りたのち、気球だけをさらに飛揚させると五、六千尺に達し、東南一里半ほどの堀江という漁村に落ちた。村人は空から降ってきた大袋の正体を知らず、風の神が袋を落としたのだ、辣韮の化物ではないかと騒いで棒で打ちかかった。袋が破れて水素の臭気が広がると、化物が悪気を吐いたと叫んで逃げ散った。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪奇集成-明治大正昭和篇(富岡直方 編著)
『日本怪奇集成-明治大正昭和篇』は、富岡直方が編んだ怪奇実話集である。明治元年から昭和七年までに各地で起きた幽霊や狐狸の怪、畸形や奇病、天変や奇瑞、世相の珍事を、当時の新聞・雑誌の記事と筆者自身の聞き書きから集めている。明治・大正・昭和の三篇に分け、話ごとに年月を掲げて通し番号を振り、新聞記事を引いたうえで紙名を末尾に添える形を基本とする。