腸チフスの妹の枕元に現れた男の子
どんな伝承か
長谷川時雨が座談会で語った話。佃島に住んでいたころ、妹が腸チフスで離れの二階に寝ており、時雨は枕元につきっきりで看病していた。ある夜ふと後ろを振り返ると、床の間の隅に十五、六と思われる男の子が腕組みをしてしゃがんでいた。髪はひょろひょろと焦げつき、顔は細長く、茄子の腐ったような色艶をしている。ここで負けたら妹が死ぬと思い、勇気を奮ってもう一度見ると何も見えなくなり、それから妹の病気は快くなった。しばらく後、箱根へ行く途中、電車が小田原の幸町という停留所に止まると、電柱に凭れて同じ男の子が立っていた。
原典より
平岡 長谷川さん、ついでに小田原であなたが見たという『チフスの疫病神』のお話をなさいませんか。—— あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
あの世はあった―文豪たちは見た、ふるえた(三浦正雄・矢原秀人・2006年(平成18年))
『あの世はあった――文豪たちは見た!ふるえた!』は、三浦正雄と矢原秀人が二〇〇六年に著した、近代日本の作家や知識人の霊体験を紹介する読み物である。熱海の旅館で遠藤周作と三浦朱門が同時に遭った幽霊、佐藤愛子の心霊現象、菊池寛・宮沢賢治・小泉八雲・土井晩翠・新渡戸稲造・南方熊楠らの体験、夏目漱石の臨死体験を、本人や周囲の文章を引いて語る。一人一章の全十二章にまえがき・あとがきを添え、巻末に霊媒クランドン夫人の実験記録を付録として収める。