病床の隅にうずくまる疫病神
どんな伝承か
長谷川時雨が佃島に住んでいた頃、妹の春子が腸チフスにかかり、離れの二階に寝ていた。夜、枕もとで看病していると病人がうなされ出す。ふと床の間へ目をやると、隅に十五、六の少年が腕組みしてうずくまっていた。髪は焦げ上がり、顔は細長い茄子が腐ったような色をしている。疫病神の話をかねて聞いていた時雨は、ここで負ければ妹が死ぬと思い、下腹に力を入れて睨みつけた。少年は煙のように消え、妹は夢から覚めたようになった。のちに箱根へ向かう電車が小田原の幸町に着いたとき、電柱にもたれた同じ少年をまた見て、睨みつけて消したという。
原典より
* 座蒲団大の男の顔 (165)* 女花子 (166)* 窓に腰をかけた女 (170)* 結いたての島田髷 (171)* 書物を返しに来る (173)* 華表の額の怪 (176)* 天井裏の妖…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。