明治天皇の夢のお告げで授かった薬
どんな伝承か
高知新聞の主筆だった楠瀬如龍が、静岡県蒲原で病床にあった田中光顕を見舞った折に夫人から聞き、同紙に書いた話である。ある日、品のよい見知らぬ女性が田中家を訪れ、主人は土佐の出で今病気ではないかと念を押したうえで、薬を持ってきたと言った。女性は宮中に六年仕えた元女官で、海軍大佐大橋才輔の妻桂子と名乗った。夜ごとの夢に明治天皇が現れ、土佐出身の田中光顕という者が病に苦しんでいるが国のために生かしておかねばならぬ、早く薬を届けよと薬の名まで示されたという。四晩続いた夢に夫も確かめてこいと許したので来たと語り、疑いの晴れた夫人は礼を述べてその薬を翁に勧めたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。