夜ごと喧嘩する稲荷の石狐
どんな伝承か
静岡市新町五丁目の稲荷神社は昔から霊験あらたかとされて参詣が絶えず、社前の二体の石狐は普通とは逆向きに据えられていた。大正十二年の七月、その石狐が毎晩午前二時ごろから喧嘩を始め、水を流すような音がして、朝になると狐の口に生きた狐の毛が付いているという噂が広まった。物好きな近所の人たちが夜通し見張ろうと境内に集まったが、辺りが妙に寂しくなってこっそり逃げ帰った。これを笑った町の青年が代わりに張り込むと、どこからか水の音が聞こえ、翌朝には果たして石狐の口に獣の毛が付いていた。町では町会を開いて稲荷にうかがいを立て、石狐の位置を改めることにした。
原典より
* 美人に化けた貉 (295)* 墓を棄てる (296)* 狐の本音 (296)* 空中に消えた兵曹 (297)* 怪談黒子禍 (301)* 啞の妖女 (311)* 高尾越の怪異 (313)*…—— 日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。