倒れて身代りとなった樹齢三百年の松
どんな伝承か
長野県小県郡塩尻村では、昭和十二年八月十六日、大字秋和の村社豊秋霧野神社で出征将兵の武運長久を祈る祭りを行った。祭神は八幡で、身代八幡と呼ばれて厚く信仰されていた。式が終わるとどこからか鳩の群れが飛んできて、村人が瑞兆だと空を仰いでいると、大きな音とともに本殿裏の松の大木が地上一丈ほどで折れ、本殿と拝殿の間に倒れた。高さ八十五尺、樹齢三百年余りの神木で、幹に空洞もなく風もなかった。建物を少しも傷めず、梢が中国の方角を向いていたため神の感応とされ、その木で弾丸除けの護符を作って村の出征兵に送ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本怪談実話(田中貢太郎・河出文庫・1938年(昭和13年))
『日本怪談実話』は、田中貢太郎が昭和十三年に著した実話怪談集を河出文庫に収めたものである。明治以降に著者が聞き集めた怪異を報告調の短文で綴り、戦地の霊験や戦死者の知らせ、狐狸・天狗・海坊主、トンネルや自動車に現れる女、幽霊写真、狐狗狸などを扱う。元本は改造社刊の『新怪談集(実話篇)』で、冕言に始まって二百を超える小話を並べ、巻末に川奈まり子の解説を付す。