意識不明の床で聞いていた病室の会話
どんな伝承か
一九八六年八月に脳幹梗塞で倒れ、およそ二か月にわたって意識の戻らなかった元検察事務官の天野錚一は、その間に見た四つの光景とは別に、不思議な記憶をいくつも持っていた。外から見れば意思を通わせることなど到底できない状態だったのに、見舞いに来た役所の庶務課長が付き添いの家族に話した中身まで覚えていた。ある看護婦が夜勤から帰る途中で酔っぱらいに絡まれて困ったと家族に話していたことも聞いており、回復してから本人に伝えると、そんなはずはないとひどく驚かれたという。手当ての最中に、どうせ分かるまいと医者と看護婦がふざけて冗談を言い合っていたことも知っていた。
原典より
あるいは、Kという看護婦が、夜勤で帰るとき、途中で酔っ払いに絡まれて困ったという話をうちの家族にしていたのも覚えています。—— 証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年))
『証言・臨死体験』は、立花隆が文藝春秋の雑誌『クレア』に連載し、一九九六年に単行本として刊行した臨死体験の証言集である。俳優の安田伸、作家の水上勉、彗星探索家の木内鶴彦、プロレスラーの大仁田厚、映画監督の羽仁進など、病気や事故で死の淵に臨んだ二十三人の体験を、本人や家族からの聞き取りで記録する。各章は人物の略歴と前置きに続けて問答形式の談話を載せ、本人の著書や手記からの引用も交える。