脳幹梗塞の二ヵ月に見た船と石垣と幌馬車
どんな伝承か
清水市の区検察庁で交通違反の処理をしていた検察事務官の天野錚一は、一九八六年八月、何度か一時的に目が見えなくなる前触れの末、勤務中に激しい頭痛で倒れて病院に運ばれ、脳幹梗塞で二ヵ月ほど意識不明となった。その間に四つの光景を見たという。静かな水辺の桟橋から木造の船に乗り込み、松の生えた対岸へ出ようとする浮き立つような場面。広い十字路の角の菓子屋で車を停め、チョコレートを買う場面。長い石垣の端に座る見知らぬ若い男に来いと手招きされる場面。そして死人たちが曳く白い幌の馬車に乗れと言われ、拒む場面である。彼はこれを神が与えた導きと受け止めた。
原典より
向こう岸に枝ぶりのいい大きな松が二、三本ありました。—— 証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
証言・臨死体験(立花隆・臨死体験・ノンフィクション・1996年(平成8年))
『証言・臨死体験』は、立花隆が文藝春秋の雑誌『クレア』に連載し、一九九六年に単行本として刊行した臨死体験の証言集である。俳優の安田伸、作家の水上勉、彗星探索家の木内鶴彦、プロレスラーの大仁田厚、映画監督の羽仁進など、病気や事故で死の淵に臨んだ二十三人の体験を、本人や家族からの聞き取りで記録する。各章は人物の略歴と前置きに続けて問答形式の談話を載せ、本人の著書や手記からの引用も交える。