熱田に現れた日本武尊の霊
どんな伝承か
能の切能物「草薙」は、恵心僧都の時代の初夏、尾張国熱田を舞台とする。僧都が七日にわたり最勝王経を講じていると、花売りの男女が現れ、結願の夜に灯火の影に姿を見せようと言い残して、風雨の中にかき消すように去った。後場では、僧都の読経の功徳に引かれて景行天皇の第三皇子日本武尊の霊が橘姫とともに現れ、天人の五衰の眠りから覚めたと名乗り、枯野で火攻めにあったとき剣で草を薙ぎ払い、逆に敵を焼いた草薙の剣の威徳を示す。著者は、海に身を投じた弟橘姫や若くして死んだ人々の霊を鎮める思いがこもるとみる。
原典より
恵心僧都の「最勝王経」の講読の功力に引かれて、日本武尊が橘姫とともにあらわれて草薙の威徳を示すのが、この切能物のテーマである。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。